Legacy of Stanislavski Laboratory
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K.Sの遺産って何?
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K.Sとはロシアの俳優・演出家で教育者でもあった、コンスタンチン・セルゲーヴッチ・スタニスラフスキィ(Konstantin(Constantin) Sergeevich Alekseyev (Stanislavski)1863〜1938)という人の事です。

彼は自らの俳優としての活動の中で、常に或る障害がつきまとうのを感じていたのですが、それをこう語っています。
甚だ奇妙なことに我々が一歩舞台へ足を踏み入れると、我々は自分の自然な天賦を失ってしまい、創造的に演じる代わりに見かけ倒しのこじつけを演じる事になってしまう。
何が我々にそんな真似をさせるのだろうか?
それは「人の見ている所で、何物かを創造しなければならない」という事情である。
そんな環境の中では、我々にとっては自分の自然な状態を歪める事の方が、自然な人間として生きる事よりもずっと易しいのである。
そして、続けます。
そこで我々は、この歪曲へと向かう傾向に対して戦うべき手段を見いださねばならなかった。
【創造的自然】は、大部分が潜在意識閾で起こるものなのだが、それに直接働きかけると潜在意識は意識と化し、死んでしまうのである。
そこで我々は、潜在意識的なものは研究しない。
ただ、そこへ導いていってくれる通路を研究するだけなのである。
K.Sは、エルネスト・ロッシー、G・N・フェドートワ、トマソ・サルヴィニ等の偉大な芸術家達との解逅の中から、また彼自身の数多くの経験の中から、そしてスゥレルジツキー、ワフターンゴフ、メイエルホリド等との実地の稽古や公演の中で、その障害に対する対処法を研究し、それを(より芸術的な創造活動の為の)システマティックな訓練法として、また実地の経験から得られた創造活動に於ける自然の法則の体系としてまとめあげました。

これが、俳優術・演技理論として広く知られているスタニスラフスキィの【システム】と呼ばれるものであり、この【システム】と、その稽古場の記録こそが、全ての芸術家へのK.Sからの遺産なのです。



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【システム】をもっと詳しく!
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スタニスラフスキー・システムとはK.Sが著した【An Actor Prepares(俳優の下準備)】・【Building a Character(俳優の役作りの仕事)】(日本語訳は、俳優修業第一部・第二部/山田肇 訳 として、未来社より出版)という2冊の書物等によって展開・解説されている、演技者のための***です。

***と書いたのは、まったくもってこれを一言で説明する言葉が見あたらないからです。
否、演技者のためのという言葉さえ確かではありません。
そこには、演技、演出、脚本、照明や道具類などの裏方スタッフや受付などの表方スタッフ、そして制作に関わるような事までが、ある演劇学校に学ぶ青年の手記の形で述べられています。

演劇論・演技論・演技者の訓練法・芸術家の心構え…
いずれもその一面はあるのですが【システム】の全体像を的確にとらえているとは言い難いのです。


#ロシアではシステムに関するスタニスラフスキィの書籍を、未完成である3冊目(形象の表現のための仕事)と併せて『 自分自身についての俳優の仕事 』と呼び、その第何部と区別しています。
また、その他の小論文や手記、演出メモ等もK.S記録文書として国家保管され、公開の許されたものは『スタニスラフスキィの遺産』として世界各国で研究されています。


【システム】についてK.S自身はこう語っています。
我々の意識的技術は、一方では潜在意識的なものを活動させる事に向けられ、また一方では、それらがひとたび活動しはじめたなら、どうしたらその邪魔をせずに済むか、ということに向けられる。

その目的は、避け難い歪曲を取り除くことに、そして我々の内部の自然の活動を、執拗な努力と適当な訓練や習慣とによって切り開かれる正しい道へと向かわせることにあるのだ。
【システム】は、俳優の、人前で仕事をしなければならないという特殊な環境によって狂わされた【自然の法則】を元通りにすべきものであり、それは俳優を正常な人間の【創造的状態】へとたち戻らせるべきものである。

#この部分だけでは誤解を招く元にもなりかねますので、少し注釈を加えたいと思います。
『〜内部の自然の活動を(中略)正しい道へと向かわせることにある。』 というところでは、どうしてもシステムの内的属性に関する事柄と直接に結び付けて考えがちな為「システムの目的は写実的リアリズムにある」と云うような、もしくは「外的な表現方法の選択を否定する立場にある」という解釈をする人が、いまだに居るようです。
もっとも【システム】の全体像を把握できていればそんな解釈はする筈が無いので、おそらくまだシステム自体の研究が十分ではなかった何十年も前の説を鵜呑みにしているのか、あるいは、まったくシステムを理解出来ていないかのどちらかなのでしょう。
内面的なリアリティの確立や身体的行動を通しての【創造的状態】への回帰はシステムの重要な目的の一つではありますが、それが全てではありません。
俳優修業第二部で述べられている【究極の超目標】や【劇場の倫理】等、全ての項目を包含した芸術への見解・態度こそが、システムの提唱であり本質なのです。



最後に【システム】に関するK.Sの二つの言葉を書き留めておきましょう。
『【システム】は、諸君が着込んで出歩くことのできる出来合いの衣服でもなければ、ページを繰りさえすれば、そこに望みの料理の作り方(=役の演じ方)が出ているような料理の本でもない。
それはひとつの生き方なのである。
諸君は何年かの間、それに従って成長し、それに従って自分自身を教育しなければならない。
諸君がなしうるのはそれが第二の天性となり、俳優としての諸君がそれによって舞台のために(=各々の役とその表現のために)絶えず変形させられるほど、それが有機的に諸君の存在の一部となるまでそれを同化し、諸君の血肉と化すことだ。
それは多くの部分として習得され、次いで綜合されて一つの全体とならねばならぬ、ひとつの纏まったシステムなのである』


『この【システム】は、創造的達成へ向かう途上の伴侶ではあるが、しかしこれは、それ自体がゴールなのではない。
諸君は【システム】を演ずるという事はできないのである。
諸君は家では(=戯曲や役を研究し、準備する時には)それに基づいて仕事をして差し支えないが、しかし舞台へ一歩足を踏み入れたら(=実際に演技をする時には)それは傍へどけたまえ。
そこではただ、創造的自然のみが諸君の導き手なのである』


【スタニスラフスキー・システム】の詳細な解説についてはバックナンバーのページをご覧下さい。



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