逢魔が時物語 II
厄祓い紀行(おまけ)




収録時の不可思議現象のプチ報告をひとつ・・・

語りを収録する時、語り部はマイクを通した自分の声を聴けるように、ヘッドホンをしています。
よく歌手がヘッドホンを付けてレコーディングをしている写真がありますが、ヘッドホンの目的は違ってもあれと同じ状態です。
「返し」と云うのですが、この方がノイズや言い回しのニュアンスの自己チェックが楽になるのです。

「返し」の音量はその語り部の好みの大きさがあるので、最初はゼロにしておいて、本番と同じように読んでもらいながら手でもっと上とか下とかと合図をしてもらい、録音レベルの調整と共に調整します。

さて、収録二日目の、ある語り部の時・・・。
マイクの前で、原稿の位置やマイクとの距離等を調整していたその語り部に、私は「返しの調整をするので、手で合図して下さい」と、ヴォリュームを下げ、ヘッドホンを渡しながら声をかけました。
ヘッドホンをつけた語り部から返ってきた答えは「いえ、大丈夫。ちょうど良いです」

えっ?・・・。あれっ、違うヴォリュームを下げちゃったのかなぁと思いつつ、再度尋ねました。
「返し、きてます?」
「はい、OKです!」
「雲谷斎さんの方もきてます?・・・」
答えはYES。勿論私のヘッドホンも生きています。

その時はお借りしたDATと云う録音機材に、私と雲谷斎さんと語り部用で3本のヘッドホンを繋げていたのですが、いかんせん普段使っている機材とは違う機材だった事と、時間も余裕があるわけではなかったため、「なんだ、このヴォリューム関係ないんだ」程度にしか考えずに収録を開始しました。

そしてその語り部の収録は無事に終わり、次の語り部の番が来ました。
隣の控室で一服して、さあ始めるかと新しいDATテープをセットし終えた私に、とっくに準備を終えてヘッドホンもつけていた次の語り部が云いました。
「すいません、返しもらえますか」
「ああごめん、ちょっと待っ・・・、えっ?」

私は再度、録音機材やミキサーの配線などを確認しましたが、状況はテープの入れ替え以外は先ほどとは何も変わっていません。
「返し、無い?」
「無いです」
「無い?!」
「無いですよぉ」
「そうだよねぇ、無いよねぇ・・・」
「???」
私と語り部の、とんちんかんなやりとりです。
語り部は、いぶかしげに私の方を見ています。
「じゃあ、これでは?」
私は、例のヴォリュームを上げてみました。
「ああ、きましたー」
語り部は、慣れた手つきでヴォリュームアップのサインを送ってくるのでした・・・。

考えてみれば、前日も同じ操作をしていたのですから、やはり最初に操作したヴォリュームは正しかったわけです。
そして、音量ゼロの状態で、最初の語り部が聞いた「返し」がいったい何だったのかは、結局、今も謎のままなのです・・・。


今回も、制作過程で数々の不可思議現象が起きています。
それらはいずれ雲谷斎さんが本編に書き上げてくれる事と思いますので、期待して待ちたいと思います。





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